「SESは未経験からでもIT業界に入れる」
「いろんな現場で経験が積めてスキルアップできる」
聞こえの良い言葉に惹かれて、SESという働き方を選ぶ人は少なくありません。
僕もかつては、そんな希望を抱いていた一人でした。
しかし、10年以上その業界に身を置いてみて、今なら断言できます。
もし、あなたがSESの現場で「なんだか理不尽だ」「このままでいいのだろうか」と少しでも感じているなら、その感覚は絶対に正しいです。
なぜなら、SESにはスキルアップというキラキラした言葉の裏で、あなたのエンジニアとしての価値と時間を静かに、しかし確実に蝕んでいく「構造的な欠陥」が存在するからです。
この記事では、僕が実際に体験した「地味だけど深刻な苦労」を包み隠さずお話しします。
これは単なる愚痴ではありません。あなたが貴重なキャリアを無駄にしないための、僕からの真剣なメッセージです。
苦労ポイント1:価値を生まない作業報告書。エンジニアの時間を奪うだけの儀式
エンジニアの仕事は、コードを書き、システムを動かし、価値を創造することのはずです。
しかし、SESエンジニアは月末や月初になると、その本質からかけ離れた”儀式”に多くの時間を奪われます。
それが「作業報告書」の作成です。
自社、客先、そのまた客先…誰のための仕事なのか
SESの多重下請け構造は、そのまま報告書の数に直結します。
- 自社に提出する報告書
- 常駐先に提出する報告書
- 商流に介在する上位会社に提出する報告書…
立場が下になればなるほど、提出先の数は増えていきます。
それぞれフォーマットもルールも違う、ほとんど同じ内容の書類を何枚も作成する。
これは一体、誰のための仕事なのでしょうか?
この作業は、1円の利益も生み出しません。新しい技術が身につくわけでもありません。
ただ、中間会社が「自分たちはちゃんと管理していますよ」とアピールするためだけに、末端のエンジニアが貴重なリソースが費やされることになります。
僕の時間は「報告書」のためにあるんじゃない
とあるプロジェクトで、僕は4社分の報告書を毎月作成していました。
月末の最終日、差し戻しや修正依頼が飛び交い、僕は本来やるべき開発作業を中断して、半日以上もExcelと睨めっこしていました。
「毎月やってくるこの時間は一体何なんだ…」
込み上げてくる虚しさ。
この報告書作成に費やした時間で、新しいライブラリの一つでも試せたはずです。技術書を1章でも読み進められたはずです。
SESの現場は、このようにしてエンジニアがスキルアップにかけるべき時間を、平然と奪い去っていくのです。
苦労ポイント2:「郷に従え」という名の思考停止。自分を殺すスキルしか身につかない
「現場ごとに新しい文化に触れられるのは刺激的」なんて言う人もいますが、僕は全くそうは思いません。
SESにおける現場変更は、「これまでの自分を否定し、理不尽なルールに思考停止で従う訓練」に他ならないからです。
理不尽なルールに「適応」させられる日々
現場が変われば、ルールが変わるのは当然です。
しかし、その中には、どう考えても非効率で、時代遅れな「謎ルール」が数多く存在します。
- SlackやTeamsがあるのに、連絡は全てCC満載のメール文化
- Gitを使わず、手作業でファイルをバージョン管理(ファイル名に日付を入れる等)
- 意味のない朝会で、全員が進捗を長々と口頭発表する
こうしたものに対して、改善提案をすることは許されません。
なぜなら、あなたは「外部の人間」だからです。
「うちは昔からこのやり方でやってるんで」
この一言で、全てが終わり。
あなたは自分の意見や培ってきた知見を殺し、その現場の理不尽な文化にただ「適応」することを強いられます。
これを「適応能力が身につく」とポジティブに捉えることもできるかもしれません。
しかし、僕に言わせれば、それは「自分の頭で考えることをやめ、長いものに巻かれるスキル」でしかないのです。
「良かれと思って」が評価されない絶望
僕も若い頃、より効率的なやり方を提案して、煙たがられた経験が何度もあります。
チームのため、プロジェクトのためを思った「良かれと思って」の行動が、評価されるどころか「和を乱す厄介者」というレッテルに繋がる。
こんな環境で、主体性や向上心が育つはずがありません。
エンジニアとしての情熱はすり減り、ただ言われたことだけをこなす、指示待ちの人間が完成するだけです。
苦労ポイント3:私は誰?会社の駒に成り下がる、歪んだ帰属意識
SESの闇が最も色濃く現れるのが、この「帰属意識」の問題です。
特に多重下請け構造の中にいると、自分が何者なのか、本気でわからなくなります。
都合よく所属会社を使い分けさせられる屈辱
信じられないかもしれませんが、現場によっては、自社の名前を名乗ることを禁じられるケースがあります。
「お客さまの前では、一つ上のA社の人間として振る舞ってください」
営業担当から、平然とこう指示されるのです。
これは業界で「商流偽装」とも呼ばれる、極めてグレーな行為です。
会議での自己紹介、お客さまとの名刺交換。
常に嘘をつき、自分が所属していない会社の名前を名乗る。
そこには、エンジニアとしての尊厳などありません。
自社からも、客先からも、一人のプロフェッショナルとしてではなく、単なる「駒(リソース)」として扱われている何よりの証拠です。
「バレたら終わり」のリスクを背負うのは、いつも現場のエンジニア
もし、この嘘が客先にバレたらどうなるか。
契約問題に発展し、大きなトラブルになります。
そのリスクを最前線で背負わされているのは、経営者でも営業担当でもなく、現場で働く私たちエンジニアです。
「自分は一体、どこの会社のために、誰のために働いているんだ?」
自分のアイデンティティが揺らぎ、会社への信頼も、仕事への誇りも失っていく。
これが、多くのSESエンジニアが抱える、見えない心の病の正体です。
まとめ:その苦しみは、あなたのせいじゃない。今すぐ環境を変えるべき理由
ここまで読んで、あなたはどう感じたでしょうか。
- 価値を生まない事務作業に、時間を奪われる日々。
- 自分の意見を殺し、理不尽な文化に従うだけの毎日。
- 会社の都合で、自分の所属すら偽らされる屈辱。
もし、あなたが今、これらの一つでも経験し、苦しんでいるのなら。
それは決して、あなたのスキルが足りないからでも、努力が足りないからでもありません。
それは、SESという働き方が構造的に抱える「欠陥」のせいです。
個人の力では、どうすることもできない問題なのです。
「これが社会人として当たり前なんだ」
「もう少し我慢すれば、きっと良い現場に行けるはず」
そんな風に自分に言い聞かせるのは、もうやめにしませんか?
あなたの貴重な時間とエンジニアとしての未来を、これ以上「消耗」させる必要はありません。
幸いなことに、今のIT業界は深刻な人手不足です。
SESの理不尽な環境に耐えなくても、エンジニアが正当に評価され、成長できる場所は他にたくさんあります。
この記事を読んで、少しでも心がザワついたのなら、それはあなたのキャリアにとって重要なサインです。
まずは情報収集からでも構いません。外の世界に、一度目を向けてみてください。
あなたのエンジニア人生は、もっと尊重され、もっと輝くべきものなのですから。
